ハードウェアウォレット「Coldcard」のファームウェアに、約5年間発見されないまま潜んでいた不具合が、これまでで最大級のハードウェアウォレット関連の被害と結びついていたことが分かった。原因は2021年3月にさかのぼる。ファームウェアの統合作業でミスが生じ、シード生成の処理が本来使うはずだったデバイス専用のSTM32ハードウェア乱数生成器ではなく、決定論的なソフトウェア疑似乱数生成器に振り分けられていたのだ。ビルド時のチェック処理は、設定用マクロが定義されているかどうかしか確認しておらず、実際に有効化されているかまでは見ていなかった。そのため対象機種は気づかれないままソフトウェア生成器にフォールバックし続け、チップのシリアル番号と内部タイマーというシード値を使っていた。これらの値は、十分な情報を持つ攻撃者であれば再現できてしまう。
この不具合が実際にもたらした影響は、鍵の強度そのものの崩壊だった。この期間に脆弱なColdcardの機種・ファームウェアで生成されたシードは、本来128ビットあるはずのエントロピーが、わずか40ビット程度にまで落ち込んでいた。デバイスに物理的に触れることすらなく、総当たり攻撃で破られかねない強度だ。
4波に分かれて流出、被害額は数千万ドル規模
攻撃者がこの不具合を悪用し始めたのは2026年7月30日。5,200を超えるアドレスから、4回に分けて合計およそ1,816BTC、当時のレートで約1億1,600万ドル相当が流出した。最も激しかった波では、わずか41分間で1,196件のアドレスが狙われ、約7,020万ドル相当の1,082.65BTCが引き出されている。2021年3月からパッチが適用されるまでの間にColdcard上でウォレットシードを生成したユーザーは、そのシードがすでに漏洩している前提で扱い、新たに生成したシードへ資金を移すよう呼びかけられている。
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全容が明らかになる前から、チェーン上には兆候があった
オンチェーン分析を手がけるGlassnodeは、週次レポートの中で休眠BTCの不自然な動きをすでに指摘していた。今回の流出に関連するウォレットの動きは、通常の休眠BTC移動パターンの約200倍の規模に達していたという。折しもビットコイン自体は歴史的に低いボラティリティのままレンジ内で推移しており、世界的な株式市場や金相場が過去最高値を更新していた時期と重なる。Glassnodeが注目したのは、盗まれたBTCのうち取引所へ直接送られた分が比較的少なかった点だ。これは、規制された取引所を通じて追跡されやすい形で現金化するのではなく、ミキサーや相対(OTC)取引を経由して資金を動かしたパターンと符合する。
信頼が本当にどこにあるのかを問い直す一件
今回の一件は、ハードウェアウォレットが支えているはずの自己管理(セルフカストディ)モデルにとって、居心地の悪いケーススタディとなった。フィッシング攻撃でもユーザーの操作ミスでもなく、信頼していたデバイスそのものに静かに潜んでいた欠陥であり、5年もの間、正しい使い方をしていたユーザーには気づきようがなかったからだ。ハードウェアウォレットをビットコインセキュリティの「ゴールドスタンダード」として売り込んできた業界にとって、これほどの規模と長さの脆弱性は、乱数生成の保証について独立した継続的な監査なしにセルフカストディ機器をどこまで無条件に信頼していいのか、という議論に今後も燃料をくべ続けることになりそうだ。