イーサリアム財団の研究者ジャスティン・ドレイク氏は、イーサリアムのレイヤー1暗号技術ロードマップにおいて、2019年以来プロトコルが採用してきたゼロ知識証明向けのハッシュ関数「Poseidon」を廃止し、SHAやBLAKEといった従来型で研究の蓄積が豊富な関数へ移行すると発表した。
ドレイク氏はこの転換を、「ポスト量子暗号をめぐる8年越し、8桁ドル規模の壮大な回り道」の終着点だと表現し、プロトコルの中核構造を簡素化する取り組み「リーン・イーサリアム」にとって、より強固な長期的セキュリティ保証を可能にする一里塚だと位置づけた。
なぜPoseidonが役目を終えるのか
Poseidonは、SNARKと呼ばれるゼロ知識証明システムの内部で計算コストを抑えられるよう特別に設計されたハッシュ関数だった。汎用的なハッシュ関数がまだSNARK内部で効率よく扱うには重すぎた時代、イーサリアムのスケーリングロードマップにとって魅力的な選択肢だった経緯がある。ドレイク氏自身の発表によれば、SNARK設計におけるブレークスルーにより、SHA2やBLAKE2sといった既製のハッシュ関数がSNARK内部でもPoseidonに匹敵する性能を発揮できるようになったといい、プロトコルの中枢に専用かつ実績の浅いプリミティブを残しておく技術的な根拠が失われたという。
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この違いが重要なのは、SHAやBLAKEがゼロ知識証明の文脈以外で長年にわたり広範な暗号解析にさらされてきたのに対し、Poseidonはより新しく用途も限定的なため、独立した検証の蓄積が相対的に少ない点にある。数千億ドル規模のネットワークを長期にわたり守ることが期待される暗号プリミティブにとって、この差はプロトコルが長く使われるほど重みを増していく。
より広範なポスト量子対応の一環
今回の転換は、イーサリアムのポスト量子セキュリティ計画に直結する動きだ。同計画は、イーサリアムをはじめとするほとんどのブロックチェーンが署名に用いる楕円曲線暗号を、将来の十分に強力な量子コンピュータが破りうる事態に備えるためのものだ。研究の蓄積が豊富な従来型ハッシュ関数に依拠することで、この移行に組み込まれる未検証の暗号学的前提の数を減らせる。もっとも、具体的なポスト量子署名方式そのものは、依然として別個の研究テーマとして進行中だ。
現行のロードマップでは、本番稼働レベルの「leanVM」を2027年に、コンセンサス層・データ層・実行層への展開を2028年に予定している。イーサリアムの研究コミュニティにとって、メインネットの中核部分に達するまでにこの移行を完了させる猶予はおよそ2年ということになる。